冷血:トルーマン・カポーティ

冷血 (新潮文庫)
9月末に映画「カポーティ」公開予定と聞いて
先にこれは読んでおかないと!と思い早速貸してもらった。
1959年に裕福な豪農一家4人が惨殺された事件を元にしたドキュメンタリー小説。
今では珍しくないけど実際の事件を元にした小説を書いたのは彼が最初だったそうだ。
意外と最近の話なんだな。


事件発生直後から犯人が死刑になる約6年間、執拗に取材したレポート6千枚を
343枚の小説に凝縮しただけあって、最初からそんなところまで?と思うほど
被害者家族が住んでいた田舎町や被害者家族の細かい描写がえんえんと続く。
途中いい加減殺人事件始まってくれないかなぁとちょっと飽きそうになったくらいの細かさで。


でも犯人達が登場してから気づくとすっかり小説に惹き込まれていた。
彼らの不幸な生い立ちや、4人も人を殺しているのに
まるで何事も無かったかのように飄々と逃亡生活を続ける彼らの姿。


ゲイだったカポーティは犯人の一人、ペリーに特に異様な執着を持って取材を
続けたらしいが、彼の相棒で分かりやすい典型的な「ワル」の
ヒコックに比べ繊細で優しいところさえ見せる彼の事は知れば知るほど分からなくなる。
少女趣味のあったヒコックが被害者家族の娘を強姦しないよう諌めた数分後、
自ら至近距離から無抵抗の少女の頭を銃でぶち抜く不可解さ、不気味さ。
今でこそ理由が分からない殺人なんて日常茶飯事になってしまったけど。


分からないと益々彼の事が知りたくなって、段々愛着すら湧いてくる。
彼の死刑執行のくだりの場面なんかには悲しい、と感じたくらい。
読んでるうちにカポーティの執念に感化されたのかな。
考えたら、「あなたをもっと知りたい」って気持はまさに恋愛感情の
始まりじゃないですか。
たまに見ず知らずの犯罪者と獄中結婚する女性が居るのをみると、
何を好き好んでこんな殺人鬼と、まったくわけわかんねえ、とか思っていたけど
まさにこれがその心理なんだろうか。